その時、私は東京のど真ん中にあるはずの無い光景を見た。

その光景は、私の人生を変えた。


1994年、高校2年の春休み。
長野のど田舎の高校生だった私は、大好きな演劇を観るためにひとりで上京していた。

お目当ては、野田秀樹さんが旗揚げしたばかりの「NODA・MAP」第一回公演『キル』。
モンゴルの英雄・ジンギスカンの侵略と制圧の戦いを、ファッション戦争に見立てた奇想天外な物語。

——なんて書いてあるのはチラシの説明で、正直ほとんど予備知識はなかった。
ただ、深夜の演劇番組で野田さんの作品に出会って以来ファンになり、「野田さんの新しい劇団の旗揚げ公演」というだけで期待で胸いっぱいで渋谷にやってきたのだ。


劇場は、東急Bunkamuraにあるシアターコクーン。
Bunkamuraの入口は少し暗く、でも中に進むとふっと光が差し込んでいる。
渋谷のど真ん中にありながら、都会の喧騒と切り離されたようにそこだけ別の空気が流れている気がする。
「演劇の聖地」って感じがしたのを覚えている。


田舎の高校生が1人でドキドキしながら開演を待っている。
大人に混じっていることに緊張していたわけではない。
これから始まる芝居が、どんな世界へ連れて行ってくれるのか——その期待で胸が高鳴って仕方なかった。


『キル』の舞台が始まると
冒頭から息が止まりそうになった。

主人公のひとり語り。
その次の瞬間、舞台いっぱいにサアッと広がった薄い青い布。

青空!!!

一瞬で、物語の世界に引き込まれる。
あまりの鮮やかさに、息が止まりそうになる。
もうここが渋谷なのかどうかなんて忘れている。舞台の上に全ての意識が向いている。

野田秀樹さんの作品は、
時間も空間も物語もねじれて、伸びて、絡み合っていく。
今がいつで、ここがどこなのか、観ているうちにわからなくなる。
そして、気づいたときには思ってもみなかった場所に立たされている。

ジンギスカンの侵略の物語が、ファッションブランドの覇権争いに重なっていく。
(この説明だけじゃ「???」だと思うけれど、台本を読んでも多分わからない。観てもらうしかない。それが舞台。)


やがて、物語の終盤。
権力争いに敗れた主人公が倒れる。

その瞬間——舞台の奥に広がったのは、

どこまでも続くモンゴルの大草原。
そして、真っ青な、広い広い大空。

「そんなわけない、そんなはずがない、
だって、劇場の奥にはコンクリートの壁が見えているのに!!」

でも、私の目には確かに、大草原と青空が広がっていて、

私は意味がわからなくて、
これまた意味がわからないのだけれど、ポロポロ泣いた。

「こんなことがあるなんて!!」

こんな、都会の真ん中の、コンクリートの劇場の、四角いステージの上に、

モンゴルの大草原が作れるのなら、

それはもう、魔法じゃないか!!!


こんな魔法を、自分も使えるようになりたい。
ポロポロ泣きながら、「舞台美術家になろう。なるしかない」そう思った。

見たこともない世界を、私も作りたい。

高校3年生になった私は、進路を美大への決めて走り出した。
通信教育でデッサンや平面構成を練習し、夏休みと冬休みには東京の美大専門予備校の講座に通った。
そして翌春、第一志望だった武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科に進学する。

舞台『キル』で見た大草原と青空が、私の人生の進路を決めた。


あの日、17歳の私が見た光景は、今もずっと心の奥に焼き付いている。

演劇は「知らない世界を見せてくれる」だけじゃない。
舞台上に、現実には存在しない光景すら立ち上げることができる。

「キル」のことを思い出す時、あの時の感動が胸に込み上げてきてまた泣きそうな気持ちになる。


見たこともない世界を作りたい。
渋谷のど真ん中で見た、あの大きな青空と大草原が、今も私を走らせている。

在学中に、『キル』の美術を手がけた堀尾幸男さんのアトリエに通い、自称“弟子入り”したり、
ずっと夢だったモンゴルの大草原へひとり旅に出かけたりした話は ・・・

また、別の記事で☆


🌏 tamako☆ | 旅するお祭りプロデューサー
人生はお祭り!世界を旅しながら、お祭りやイベントに参加したり、ときには自分でプロデュースしたり。
“世界が広がる体験”をシェアしていきたいな☆

今回紹介した劇団
【NODA・MAP】
https://www.nodamap.com/
「キル」以降も欠かさずに観に行く大好きな劇団☆
野田秀樹さんの脚本と演出は唯一無二!
生の演劇でしか味わえない素晴らしい体験がそこにはあります。
「演劇見てみたいな」という方にまずオススメする劇団です。
(ただし、人気すぎてチケット争奪がすごいです)

※TOP画像は「キル」の舞台模型の写真です。舞台美術を手がけた堀尾幸男さんの展覧会で撮影可能だったので、大感激して撮影させていただきました。


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tamako☆ |旅するお祭りプロデューサー

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